ネットで購入した蓄音器が届きました。学生時代に友人宅で非常に状態の良いワンオーナー(友人の祖父が勤務先の満洲で戦前に購入)の蓄音器、アメリカ・ヴィクター製のスタンド型VV4-40の美音を聴いてから熱狂的な蓄音器ファンになり、親父が若い頃買って持っていたSP(78廻転)レコードを再生したくて恵比寿の骨董屋で日本ビクター製のJ(VV)1-80(擬似エクスポネンシャル[*]木製ストレートホーン)を購入しました。当時は大した知識も無かったので取り敢えずビクターの物を入手した訳ですが、サウンドボックス(針を着けてレコードの音溝の振動を空気振動に変換する所謂ドライバー)が経年劣化で割れていたり(鋳物なので経年で皹が入りボロボロに割れる、大量生産前の極初期のものは真鍮製なので割れない)して音がビリついて良い音が出ませんでした。その後卓上型の名器と謂れるリエントラント(2分割木製エクスポネンシャル)ホーンを装備したVV1-90を入手しましたが、矢張りサウンドボックスにビビりがありホーン音道の底板に割れがあってそこから空気漏れして低域が出ず中々満足な音が得られませんでした。日本製のVV1-90は造りというよりも材質がダメだなぁと感じてそれ以降は米国製のVV1-90を探しましたが中々満足する製品に出会えませんでした。まぁ、本家のクレデンザでも木製ホーン故の経年の膨張収縮の繰り返しにより生じたリーク(隙間)が空気漏れを起こして低域が薄い音になってしまっているものが殆どでした。これまで何台ものクレデンザを聴いた経験でもホーンの大きさの割には中高域だけしか聴こえて来ない製品ばかりでガッカリしたものです。その点では原理的にリークが発生しない金属製ホーンの小型スタンドタイプの英HMVのMODEL 157の方がよほどバランスの良い朗々とした音でした。その後戦後に製造された日本コロムビア製のポータブルを買いましたが、これは音が良かったですね。ただ、蓄音器を扱う商売人の裏側を知った為、一時期蓄音器への興味を完全に失って全ての蓄音器を売り払ってしまい暫く蓄音器がない状態が続きました。10年程前から再び蓄音器への興味が再燃して2分割エクスポネンシャル金属ホーンの日本コロムビア製のNo.116を皮切りに同じ日本コロムビアのNo.109(こちらはエクスポネンシャル木製ストレートホーン)、イギリスHMV(グラモフォン社)の卓上型Model 130(金属製エクスポネンシャルストレートホーン)、日本のオーゴン(洋々社)製(当時は先進的な樹脂製2分割エクスポネンシャルホーン)、日本ビクター製最廉価品J1-35(1-80と同様の擬似エクスポネンシャル木製ストレートホーン)を入手してSPレコードを楽しんでいました。数日前ネットを見ていたらアメリカ・ヴィクター製の珍品卓上型T-90を見つけてついつい買ってしまいました。これは当時極東輸出向けに製造された物で日本には(日本ビクター蓄音器株式会社が設立されていた為)直接入ってはいないようです。オートストッパーやトーンアーム等の金属部品はVV1-90と同じ物ですがホーンは1-80と同等の擬似エクスポネンシャル木製ストレートホーンです。自分は擬似エクスポネンシャルストレートホーンは日本ビクターの設計かと考えていましたが、本家アメリカ・ヴィクターでも製造されているので、組み立てに手間がかかる2分割ホーンの代わりに簡易型をアメリカ本社で設計したと思われます。サウンドボックスは勿論アメリカ・カムデン製で経年の割れも見当たらずビリつきも無い非常に状態が良い物で、発条モーターも整備され廻転も安定しており満足の行く物でした。日本ビクター製も悪くないのですが、日本特有の湿気の所為なのか何となく音が重たく地味な感じがしてアメリカ・ヴィクターの明るく軽快な音が欲しくて手を出しました。実際に再生してみて予想通りの明るく軽快な音で、暫くはこれでSPレコードをアコースティックで楽しめます。
*擬似エクスポネンシャルとは私が勝手に命名したもので一般的には通用しないと思います。これはVV1-90、VV8-30(CREDENZA)、HMV MODEL130等のように物理的な音響インピーダンスの整合を前提条件としたトーンアームからホーン開口部までを指数(エクスポネンシャル)関数に基づいて正確に曲線で成形したものではなく、指数の要所を大雑把に直線で構成した簡易なホーンで、おそらく開発元のウェスタンエレクトリックに支払う高額なパテント料を回避して製品を安価に提供する為に音質低下を極力避ける形で開発された物だと理解しています。実際に未だ聴力が絶好調だった20代の頃VV1-90とJ1-80を比較したのですが、音質の違いは軽微なものでした。矢張り流石はアメリカ・ヴィクターだけあって試聴を繰り返して大きく質を損なわないような形で製造過程での省力化を実現したものと今更ながら感嘆します。この後アメリカ・ヴィクター・トーキングマシン社はRCA社に買収され真空管を用いた電蓄に移行した為アコースティック蓄音器の最終形となりました。T-90に関してはRCA時代になっても販売されていたようで天板の裏に旧来のVictrolaではなくRCA Victorのデカールが付けられた製品も存在します。アコースティック蓄音器も研究すればする程奥の深い世界ですね。
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