長らく欲しかったCDを漸く入手しました。パール・ヘンリッキュ・ヴァリーンヌ(従来のペール・ヘンリック・ワリーンからスウェーデン語の発音に近い表記に訂正しました。最初のパはペとパの中間で僅かにパ寄りに、最後のNはフランス語のようにンの後に余韻としてヌが聞こえます<2016年11月17日更新>)の弾いたフリージャズのピアノソロです。
たまたまネットで検索したら横浜の某ショップに在庫があり速攻で注文しました。同じ音源は若い頃さんざんLPで聴いたのですが、スウェーデンのジャズ・ピアニストということもあって情報が少なく復刻されたCDはなかなか入手できませんでした。
パール・ヘンリッキュ・ヴァリーンヌ(ペール・ヘンリック・ワリーン)は1946年生まれで2005年に58歳という若さで他界したスウェーデンのジャズ・ピアニストで、ヨーロッパのフリー・前衛ジャズの旗手でした。私は学生時代、おそらく1984年頃に今はなき秋葉原の石丸電気3号店の輸入盤フロアで彼の"One Knife Is Enough(1982/36歳)"というレコードをジャケットに惹かれて購入、帰宅して針を降ろした直後に衝撃を受けました。このレコードは縦横無尽に自在に鍵盤を走り回る、彼の若々しくピアニスティックでありながら極めて内省的な演奏スタイルをオンマイクで余すところなく優れた音質で収録してあります。フリージャズであり現代音楽でもある彼の演奏スタイルは、自分の(かなり低レベルな)即興演奏に強い影響を与えています。チャールズ・アイヴズを敬愛していたという彼の演奏には、アイヴズの作品同様信じられないくらい美しい瞬間があります。フリージャズというとハチャメチャな演奏を想像してしまいがちですが、彼の演奏はヨーロッパ流の堅固な形式感をちゃんと備えています。どの曲も素晴らしいのですが、Southern Exit という曲が凄くいいので、いずれ耳コピで譜面を起こして弾いてみたいですね。
不幸な事に彼は1988年、まだ42歳という若い時に交通事故で首を負傷した事が原因で下半身不随になってしまい、懸命なリハビリの末に一旦は復帰するのですが、直後に大病を患い復帰は更に遠のいてしまいます。CDの後半は復帰後の晩年2003年の録音で、事故に遭う前の華麗な技巧的演奏スタイルとは全く変わってしまいますが、鍵盤を叩きつけ乍らも訥々と語るような内省的な演奏は更に深化しており、彼の紡ぎ出す音楽には前衛的でありながらもある種の親しみ易ささえ感じます。後半は倍音の感じから、おそらくベーゼンドルファー・ピアノを弾いているのではないかと思います。
遺された彼の写真を見ると終生煙草が手放せなかったようで、若い頃は煙草をくわえながらピアノを弾いていますし(私も若い頃はヘビースモーカーだったので火の付いた煙草の灰で電子ピアノの鍵盤を焦がした経験があります)、車椅子での活動を余儀なくされた晩年に至るもマールボロの箱や灰皿がピアノの上に置かれていたりします。もしも不幸な事故に遭わなければ2014年の現在(生きていれば68歳)でも現役バリバリで華麗なテクニックでピアノを弾いていたに違いないと考える時、彼の事故後の苦行のような人生(16年間)に思いを馳せて本当に残念でならないのです。青春時代に彼の演奏を聴いて大いに触発された自分としては、遺された音源から彼の演奏の素晴らしさを知って頂ければと願わずにはいられません。
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1984年頃に購入したLPジャケット |
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LPジャケットの裏面 |
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晩年のCDジャケット写真 |
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若い頃の写真 |
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